
空き家が増える日本で、
庭がもたらす新しい価値とは。
日本では今、少子高齢化が進む中で住まいを取り巻く環境が大きく変わろうとしています。
総務省が2023年に実施した「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家件数はすでに900万戸を越え、過去最多を更新。さらに将来は「3軒に1軒が空き家になる」とも言われています。
少し驚くような数字ですが、これは決して他人事ではありません。「親の家をどうするか」「古くなった自宅をどう維持するか」など、多くの人が直面していくテーマだからです。
ただ、この縮小の流れは、決して暗い話ばかりではありません。
日本全体の価値観が変化している今こそ、住まいの質を見直し、暮らしをより豊かにするチャンスでもあるのです。
家を建てることがゴールだった時代から、今あるものをどう愛し、どう活かしていくか。そんな「暮らしの成熟」を楽しむフェーズに、私たちは立っているのかもしれません。
その鍵を握っているのが、実は家の外側――「庭」という空間なのです。

庭が整うと、
家の価値が生まれ変わる。
空き家が問題とされている理由のひとつが、「手入れされない庭や外構」です。
・雑草が伸び放題
・崩れかけた古いブロック塀
・暗くて防犯が心配
庭や外構が荒れてしまうと、家そのものの印象を大きく下げてしまいます。
逆に考えれば、「庭が整うと、家の価値は見違えるように上がる」ということ。
近年、不動産業界では、「外構は資産価値を左右する」という認識が強まり、お庭を整えたリノベーション物件が人気を集めるようになりました。
・駐車場を使いやすく舗装する
・雑草を減らすために、グランドカバーや砂利を入れる
・古くなった植栽を整理する
実際に、このように少し手を加えるだけでも、家は見違えるほど生き生きと輝きはじめます。

心の余白を生む
緑のちから。
庭の価値は、資産として数字で測れるものだけではありません。
窓の外に緑があることが、私たちの心と身体にどれほどの良い効果があるか、多くの研究でわかっています。
・庭を眺めているだけでストレスが軽減する
・ガーデニングは認知症予防に役立つ
・家庭菜園は心の張り合いを生む
・木陰や緑があるだけで夏の体感温度が下がる
コロナ禍を経て、「家で過ごす時間の質」を大切にする人が増えました。
庭づくりが「贅沢品」ではなく、「心の豊かさをつくる空間づくり」として見直されているのはこのためです。
とりわけ高齢のご家族がいるご家庭では、庭が「毎日の楽しみ」になることも少なくありません。

「空き家の庭」をどうするかが、
未来を左右する。
これから増えるのは、「空き家予備軍」の物件。
親から受け継いだ家や、長年住み慣れた我が家をどう維持していくかが、私たちの世代の大きなテーマになります。
多くの人が頭を悩ませるのは、「どうしていいか分からない」ということ。
売るにしても貸すにしても、まずは家を整える必要がありますが、実はここで外構が大きな差を生みます。
お庭や外構が荒れている物件は敬遠されやすい一方、整っている物件は、「売却しやすくなる」「賃貸として見栄えが良くなる」「資産価値が落ちにくくなる」というメリットがあります。
日本はこれから、家を建てる時代 から 「家を活かす時代」へと移っていくように思います。
この流れは、庭づくりにも大きく影響します。
以前のように、まっさらな土地に新しく庭を作るだけでなく、長く育った樹木とどう付き合うか、古い外構をどう活かすか、使いにくい動線をどう改善するか、など、既存の住まいを再生させる仕事が増えていきます。
最近では、自治体や不動産会社から、「空き家の庭をどうにかしてほしい」という相談が増えているほどです。

リセットではなく「再生」させる。
庭は未来につなぐ資産。
かつてのように、すべて取り壊して新しくするのではなく、元の良さを活かしながら、今の暮らしに合う形にアップデートしていく。
これは、過去から受け継いだバトンを大切に磨き直すような、とても贅沢でクリエイティブな挑戦。デザイナーのデザイン力と職人の技術が問われる、私たち庭に携わる者の腕の見せどころなのです。
空き家問題、相続、贈与、ライフスタイルの変化……。暮らしや住まいに関する課題がますます複雑になっていく中で、庭が果たす役割は大きくなっていきます。
庭は、家の価値を守り、心の豊かさを育て、家族の思い出をつなぎ、未来の世代に受け継がれる、「暮らしの器」そのものです。
庭づくりとは、ただその場所をつくる仕事ではなく、「その家でどんな時間を過ごすのか」をデザインする仕事でもあります。「これからの人生をどう過ごしたいか」を描くことそのものです。
人口が減り、住宅が余る時代だからこそ、「本当に価値のある住まい」が選ばれるようになります。
その鍵が、家の外に広がる「庭」なのです。
企画・編集:若柳/黒木

庭と暮らしのジャーナル
暮らしの中の小さな気付きやヒントを綴る読みものシリーズ【庭と暮らしのジャーナル】。庭や緑を入口に、“暮らす”ということを丁寧に見つめる時間をお届けします。
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