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【読みもの】なぜ神社はこれほど多く、長く残っているのか? 日本の空間づくりに受け継がれる“心の設計”。

なぜ神社はこれほど多く、長く残っているのか。
― 日本の空間づくりに受け継がれる“心の設計” ―
日本には、約8万社もの神社があると言われています。
全国の主要なコンビニの店舗数が約5万5,000点ほどですから、圧倒的に上回るほどの多さです。
初詣や七五三など、節目に訪れる場所ではありますが、「なぜこれほど多くの神社が、時代が変わってもなお、各地に存在し続けているのか」、その理由を考えたことのある人は多くないかもしれません。
実は、この「残り続けている」という事実には、私たち日本人が大切にしてきた暮らし方や、空間への考え方が深く関係しています。
= 目次
(1)境界をつくり、心を整える
― 日常と非日常を分かつ境界。
日本人が愛した空間のしつけ。
(2)『整え、清める』という、おもてなしの文化
― 神社の清廉さに学ぶ、おもてなしの作法。
(3)自然とともに生きるという思想
― 人と自然が響き合う『調和』の景色。
(4)目に見えない心地よさを形にする
― 五感で受け取る、心地よさのサイン。
(5)庭に宿る、日本の美意識。
― 人の心の豊かさを育む、『心の設計』を未来へ。
境界をつくり、心を整える

日常と非日常を分かつ境界。
日本人が愛した空間のしつけ。
神社の入口にある「鳥居」。それは、日常の世界と、静謐な聖域を分ける境界です。
鳥居をくぐる瞬間に、ふと背筋が伸び、心が穏やかになるようなあの感覚は、単なる宗教的な儀式ではなく、一種の「心のスイッチ」のようなものかもしれません。
実はこの『境界をつくる』という知恵は、現代の暮らしにも息づいています。
たとえば、門から玄関へと続くアプローチ。あるいは、庭と室内をつなぐ縁側。それらもまた、日常と非日常のあいだに『間(ま)』を設ける、日本的な設計の美しさ。
忙しい毎日を過ごす私たちにとって、「ここは心を整える場所」と思える空間に境界をつくり、空間にリズムを持たせることが必要なのです。
『整え、清める』という、おもてなしの文化

美しさは、秩序の中に。
神社の清廉さに学ぶ、おもてなしの作法。
神社に足を踏み入れると、打ち水がされた手水舎があり、砂利が美しく敷きつめられています。隅々まで掃き清められた境内に迎えられると、それだけで心が洗われる気がしませんか?
この『整え、清める』という行為こそが、神社が長く愛され続ける理由のひとつだと私は思います。
清潔さ、秩序、そして静けさ。
それらは訪れる人の心を落ち着かせ、「ここにきてよかった」という安心感を生み出します。
住まいの庭や外構の手入れも、実はそれと同じこと。
掃き清められたアプローチや、季節を感じさせる整った植栽。それらは単なるメンテナンスではなく、訪れる人や家族への言葉にしない『おもてなし』なのですね。
家そのものがもつ温度や、住まう人の人柄は、そうした細やかな空間のしつらえに宿るものなのです。
自然とともに生きるという思想

人と自然が響き合う
『調和』の景色。
神社の多くは、豊かな木々に守られ、水や風の通り道が設計されています。
そこには、『自然のちからを借りて、人の心を鎮める』という、日本人の古くからの叡智が隠れています。
私たちが庭づくりを考えるときも、この感覚を大切にしたいものですね。
風が抜け、光が差し、季節が感じられる空間。
それは単なるデザインの良し悪しではなく、「人と自然が調和して生きる」ということの象徴でもあります。
目に見えない心地よさを形にする

光と影、そして風。
五感で受け取る、心地よさのサイン。
神社を訪れても、そこにはきらびやかな装飾や派手な仕掛けはありません。それなのに、なぜか心が落ち着き、いつまでもその場所に留まりたくなる……。
その理由は、空間が持つ『見えない秩序』にあります。
音、光、影、空気の流れ。それらが絶妙なバランスで整えられ、私たちが無意識のうちに五感で心地よさを感じるようにできているのです。
ガーデンやエクステリアのデザインも、本質は同じかもしれません。
選ぶ素材や形はもちろん大切ですが、そこにどんな風が通り抜け、そんな影が落ちるか、そんな気配づくりまで含めてデザインし、暮らしのリズムを整えていく。それこそが、成熟した大人の住まいづくりに求められているように感じます。
庭に宿る、日本の美意識。

人の心の豊かさを育む、
『心の設計』を未来へ。
神社が千年以上もの間、日本中のあちこちに残り、人々に親しまれてきたのは、そこに『人が心地よく過ごすための工夫』が詰まっているから。
ただ建物を建てるのではなく、まずその土地の風を読み、光を導き、木々のざわめきさえも計算に入れる。そうして整えられた秩序ある空間は、時代を超えて人の本能に心地よさや安心感を訴えかけてきました。
私たちが理想の庭や外構を形にするときも、大切にしたいのはその視点です。
デザインとは、お洒落に飾ることではありません。
住まう人、訪れる人の心がどう動き、どう安らぐか。視線が抜ける先にある緑の配置や、一歩踏み出すときの歩幅に合わせた石の並べ方など、細部に宿る空間の思いやりこそが、住まいの質を決定づけます。
華美でも派手でもないけれど、凛としていて、なぜか心が安らぐ。
そんな空間をひとつひとつ大切につくっていくことが、日本の空間づくりの文化を守り、その美意識を未来へつないでいく。それこそが、私たちが大事にしたい、豊かさを育むための心の設計なのです。
企画・編集:若柳/黒木

庭と暮らしのジャーナル
暮らしの中の小さな気付きやヒントを綴る読みものシリーズ【庭と暮らしのジャーナル】。庭や緑を入口に、“暮らす”ということを丁寧に見つめる時間をお届けします。
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