
緑がおしえてくれること
私たちが緑を大切にする本当の理由。
通勤途中の街路樹や、ベランダの鉢植え。
毎日目にしているはずの緑が、ふと心を軽くしてくれる瞬間があります。
きっとそこには、緑がもたらす「癒しの仕組み」があるのでしょう。
今日は、そんな『緑のちから』について、人と街、そして地球の視点からたどっていきます。
= 目次
(1)心をほどき、感性を高める
― 人にとっての緑の効果
(2)緑のインフラ
― 街にとっての緑の効果
(3)地球の呼吸を取り戻す
― 地球にとっての緑の効果
(4)“返す”というやさしさを、暮らしの中に
緑が持つ癒しのちから
人の心をほどき、感性を高める
特に意識しなくても、緑がそばにあるだけで癒されたり活力をもらったりしている。そんな方も多いのではないでしょうか。
デスクワークの合間にふと緑を眺めるだけで、考えが整理されたり、新しい発想が浮かんだり。
それもまた、緑がもたらす回復力のひとつです。

人にとっての緑の効果
(1)ストレス軽減・副交感神経の活性化
緑を見ると脳波が安定し、心拍数や血圧が下がります。安心感・リラックス・集中力の向上にもつながります。
(2)セロトニン・オキシトシンの分泌を促進
植物に水をあげる、枝を整える、風に揺れる葉を眺める。これらの行為は、心の安定や幸福感をもたらす『セロトニン』と、緊張をやわらげ安心感を高める『オキシトシン』を同時に生み出してくれます。
(3)感性を育て、集中力を高める
五感で植物と触れ合うことで、脳の前頭前野(創造性や思考を司る部分)が活性化し、たのしく前向きな企画やアイデアが生まれやすくなります。
さらに、思考の疲労を回復させて、集中力を高めてくれます。
緑が持つ癒しのちから
街の熱をやわらげ 人をつなぐ、緑のインフラ
街の中に木陰があるだけで、空気が少しやわらぐ気がします。
真夏の歩道でアスファルトの熱をやわらげてくれるのも、緑のもつ力。
そしてさらに、緑のある場所には人々が集まり、自然な交流が生まれます。街の中の緑は『人をつなぐ』インフラでもあるのです。
木陰の下のベンチで休憩する時間、花壇のお世話する人々、散歩中の通りすがりのあいさつ。
街でのそんな小さな風景の積み重ねが、街を育てていくのですね。

街にとっての緑の効果
(1)気温を下げる
樹木の木陰が直射日光をさえぎり、地面の表面温度を10〜20℃下げます。
さらに、葉から水分を蒸発させる『蒸散作用』が周囲の熱を奪い、天然のクーラーのような効果を生み出します。
(2)ヒートアイランド現象の緩和
アスファルトに熱がこもる都市では、夜になっても温度が下がりにくくなります。
緑はこの『ヒートアイランド現象』をやわらげ、街の気温を2〜3℃下げる働きをします。
(3)雨水調整と防災効果
植物の根や土壌が雨水を吸収・保水し、洪水や地盤沈下を防ぎます。
緑は『都市のスポンジ』として、自然のちからで街の安全を守る存在です。
(4)景観価値・不動産価値の向上
緑豊かな街は歩きたくなりますよね。公園やコミュニティガーデンには人が集まり、会話が生まれ、『地域のリビング』としての役割も果たします。
ファサードに緑がふんだんに使われている店舗や住宅は、その魅力的な景観で資産価値も高まります。
緑が持つ癒しのちから
地球の呼吸を取り戻す
静かな森の中で、木々が風に揺れる音を聞いていると、大地そのものが呼吸をしているように感じる瞬間があります。
植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し、酸素を生み出している。
緑化は、そんな『地球の呼吸』を取り戻すための、最も自然で持続的な手段なのです。

地球にとっての効果
(1)CO₂を吸収し、大地に炭素を固定する
植物は光合成で二酸化炭素を吸収し、酸素を放出します。特に樹木は、炭素を幹や根に長期間固定することで、長い時間をかけて、地球温暖化を抑える働きをしています。
(2)土壌の炭素貯蔵と生態系の維持
緑地は裸地化を防ぎ、土壌の中で微生物が活動できる環境をつくります。
昆虫や鳥など多様な生命が共存できる環境を作り、生態系を育むのです。
(3)建物の省エネとエネルギー循環
屋上や壁面の緑化は、建物の断熱・遮熱性能を高め、冷房エネルギーを約20〜30%削減します。
さらに、剪定枝や落ち葉を堆肥として再利用すれば、地域単位でのカーボンニュートラルな循環が生まれます。
(4)カーボンシンクとしての都市緑化
街中の植栽帯や屋上の庭も、炭素を蓄える『ミニ森林』として機能します。
小さな緑が集まることで、都市全体のカーボンバランスを整える力になるのです。
『返す』というやさしさを、暮らしの中に
いまの便利な時代の中で、私たちは多くのエネルギーを使いながら生きています。
だからこそ、自然に『返す』ことを忘れずにいたいのです。
木を植える。草花を育てる。
その行為の中には、地球への感謝があり、一歩ずつ取組むことで、未来へのやさしい循環が生まれます。

『緑化』とは、ただ植えることではなく、地球の呼吸を整え、未来へとつなぐ『いのちの循環』を守ること。
『返す』というやさしさを、暮らしの中に。
私たちは、庭づくりに携わるプロとして、緑を植え育てることで、地球環境への感謝を伝えていきたいと思っています。
それが、人と地球が共に生きていくための、いちばん自然で、いちばんやさしい方法なのです。

人の暮らしと自然が共に息づく世界を、
足もとの一鉢から育てていきたいですね。
企画・編集:中嶋/黒木

庭と暮らしのジャーナル
暮らしの中の小さな気付きやヒントを綴る読みものシリーズ【庭と暮らしのジャーナル】。庭や緑を入口に、“暮らす”ということを丁寧に見つめる時間をお届けします。
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